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名古屋地方裁判所 平成7年(わ)370号 判決 1995年6月28日

本店所在地

愛知県瀬戸市坊金町七〇番地

株式会社一位

(右代表者代表取締役 太田善弘)

本籍及び住居

愛知県瀬戸市さつき台二丁目六一番地

会社役員

太田善弘

昭和一一年九月一三日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官堀本久美子、被告人両名の弁護人水野基各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社一位を罰金一四〇〇万円に、被告人太田善弘を懲役一年に処する。

被告人太田善弘に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社一位(以下「被告人会社」という。)は、愛知県瀬戸市坊金町七〇番地に本店を置き、産業廃棄物の運搬及び処理等を目的とする資本金七五〇万円の株式会社であり、被告人太田善弘(以下「被告人太田」という。)は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人太田は被告人会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空外注費及び架空処理費の計上並びに売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が五六〇一万八二二二円であったのにかかわらず、平成三年六月一日、瀬戸市熊野町七六番地一所在の所轄尾張瀬戸税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の欠損金額が二九五六万五二八五円であり、納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一九五五万九八〇〇円を免れ、

第二  平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が六二七一万一二三二円であったのにかかわらず、平成四年六月一日、前記尾張瀬戸税務署において、同税務署長に対し、右事業年度において所得及び納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二二六六万九二〇〇円を免れ、

第三  平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三七四二万二六一五円であったのにかかわらず、平成五年六月一日、前記尾張瀬戸税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の欠損金額が七九八万七九〇三円であり、納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一三二五万九九〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人株式会社一位の代表者である被告人太田善弘の当公判廷における供述

一  被告人太田善弘の検察官に対する供述調書八通(乙1ないし8)

一  太田志津子(甲31)及び太田孝三(甲32)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二〇通(甲7、9、10ないし14、16、18、20ないし30)

一  登記官作成の登記簿謄本(乙9)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲1)及び証明書(甲4)

判示第二、第三の事実について

一  検察官作成の捜査報告書二通(甲8、15)

判示第二の事実について

一  検察官作成の捜査報告書(甲19)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲2)及び証明書(甲5)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲3)及び証明書(甲6)

(法令の適用)

被告人会社の判示第一ないし第三の各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人太田の判示第一ないし第三の各所為はいずれも同法一五九条一項にそれぞれ該当するところ、被告人太田については所定刑中懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については右改正前の同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告人会社を罰金一四〇〇万円に処し、被告人太田については右改正前の同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人太田を懲役一年に処し、被告人太田については情状により右改正前の同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

(量刑の理由)

被告人会社は本店所在地において産業廃棄物処理業を営んでいるが、それに伴い発生する悪臭等について、本店所在地西側近隣住民の一部から執拗な抗議を受け、保健所や市役所等に通報され、度々行政指導を受けた。被告人会社の代表者である被告人太田は、行政が定めた環境基準を守っているはずなのに、右のような執拗な抗議を受けたため、このままでは営業が続けられなくなると考え、その対策として被告人会社の敷地の西側に三階建ての社屋を建設し、これにより目隠しをするとともに悪臭が隣家に流れるのを防止しようとした。被告人太田は、早期に建設資金(約二億円)を捻出するため、本件脱税の犯行を行った。右の建設資金は、借入金で賄うとか、税金を納めた後の利益から捻出すべきであって、脱税の動機に酌量の余地は乏しい。本件犯行は、脱税の発覚を困難にするため、休眠会社や架空会社に架空の外注費や処理費を請求させ、また、一箇所にのみ架空経費の計上が集中して目立つことのないように架空の取引先を三社に分散させ、更に売上を除外する取引を長期継続的なものではなく単発のものに限定するなど周到に計画されたものであったこと、脱税額も三年間で合計五五〇〇万円余と決して低額ではないこと、各申告所得金額は零円以下でほ脱率は一〇〇パーセントであることなどの事情からすれば、被告人両名の刑事責任は重いというべきである。

他方、本件脱税により捻出した裏金は遊興費等の私的な用途に使用したものではないこと、被告人両名は国税局の査察には協力的であったこと、本来納めるべき法人税本税、延滞税、重加算税についてはすべて納付済みであること、被告人両名には前科はないこと、被告人太田は本件犯行について十分反省していることなどの事情も考慮し、主文の刑を量定した(求刑、被告人会社に対し罰金一八〇〇万円、被告人太田に対し懲役一年)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 土屋哲夫)

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